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考える言葉

拠りどころ

2013年08月12日

 「好況よし、不況もまたよし」という言葉は、経営の神様と呼ばれた松下幸之助氏の有名なセリフの一つである。

 松下電器(現パナソニック)を創業以来、幾多の経営危機を乗り越えてきた体験からにじみでてきた言葉であろう。この言葉と出逢って久しくなるが、その意味を反芻するたびに、恵まれた環境に感謝すると同時に、まだ苦労が足りないことへの危機意識を覚えざるを得ない。

 「好況よし」は、誰もが分かる。しかし、「不況もまたよし」という言葉は、それを体感した人でないと、なかなか思い浮かぶ言葉ではない。

 「不況またよし。不況は改善、発展への好機である」 つまり、「不況においては、好況の時には見えなかった部分が見えてくる。目の前の現象に踊らされることなく、長期的な視点から経営を見直す一つの機会と捉えて取り組むことが重要だ」ということを示唆してくれている。

 そういえば、京セラの稲盛和夫会長も同じようなことを言っていた。恐らく、優れた経営者だったら誰もが「不況またよし」の言葉に、「然り!」と頷くに違いない。なぜなら、彼ら優れた経営者には、確固たる"拠りどころ"があるからだ。

 "拠りどころ"、企業でいうところの経営理念である。統率力、決断力、実行力、あるいは先見性、さらには徳という人格的なものなど、経営者に必要な条件はいろいろと考えられるが、「何がいちばん大切かというと、経営理念ではないか」と、氏は断言していた。経営者に求められる決断や実行も、正しい経営理念という"拠りどころ"があってこそ、ぶれないのである。

 不況もその一つであるが、事業の継続にはつねに難題がつきまとうもの。そのプロセスで、必ずトレード・オフが生じる。Aをとるべきか、Bにすべきか頭を悩ます。そんなとき、"拠りどころ"がない人は主体性を見失い、状況に流されてしまう。

 "拠りどころ"とは、ぶれてはならない軸である。辛さに負けて、動揺し、軸をぶらしてしまうから一貫性を失ってしまい、社員や顧客などとの大切な関係性を損なってしまうのである。

 "拠りどころ"は、確固たる信念にならなければ意味をなさない。たんに、頭で考えたものでは本物ではない。その人の人生観なり、世界観といった価値観に根ざしたものであることが大切である。

 一日の仕事が終わる。必ず、"拠りどころ"に立ち返って反省をする。それが組織文化となれば、どんな状況においてもぶれない経営力が培われるだろう。

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